

穏やかにきらめく瀬戸の海を感じたくなり、窓を少し開けると、やさしい春の潮の香りが部屋に届く。垣根越しに見える島々が、晴れた日はとくに美しい。海沿いの緩やかな斜面の中腹にあるため、宿から厳島神社を擁する宮島が一望できる。夜は星明りの下幻想的な眺めが広がり、早朝は静けさのなかにその厳かなシルエットが浮かびあがる。刻々と変化する景色は、いくら眺めても飽きがこない。 部屋から「石亭」自慢の庭に出てみると、瀬戸の海はいっそう間近にある。夕暮れ時からは、背後にそびえる水墨画を彷彿とさせる漆黒の山々と、1,500坪ある庭に灯された篝火が幽玄な趣を醸し出す。庭にはサロンや池の傍のテラス、床下に隠れた洞、数千冊の本が並ぶ書庫なども仕組まれている。その意外な楽しさに、「『庭園の宿』と称する理由はこれか」と思わず膝をうつ。 名庭を堪能し、大浴場に向かうと、そこにはヒバの白木の内湯と、小さめだが緑に囲まれて野趣たっぷりの岩露天風呂。まろやかな湯が肌に気持ちいい。瀬戸内の旬の魚貝の小皿を宴の前に、既に至福の気分。名庭・名湯のおもてなし、まさに恐るべしである。 |
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