日本の象徴・富士山を筆頭に、多彩な景観と文化で旅人を魅了する富士箱根伊豆国立公園。その中でも箱根芦ノ湖エリアは、平地との温度差がマイナス5度というわが国屈指の避暑リゾート地でもあります。かつての財閥の男爵別邸から歴史を引き継いできた「山のホテル」は、杉木立に抱かれた湖畔にたたずむリゾートホテルです。箱根を訪れた人なら、誰でもあこがれるホテル。上質なクラシカルリゾートを満喫できる、非日常的なテイスト。先人が築いたトラディショナルな趣きに惹かれて、春の芦ノ湖を訪ねました。
芦ノ湖の玄関口ともいえる元箱根。連日多くの観光客でにぎわっています。飲食店や雑貨店などが軒を連ね、美術館や資料館などの文化施設も点在しています。
観光で最も人気のあるのが、芦ノ湖をクルージングする遊覧船。元箱根港を起点に遊覧、特に箱根海賊船と称されるユニークな遊覧船は、そのユニークな外観から観光客の間でも人気の高い存在です。
芦ノ湖のランドマークのひとつ、箱根神社の鳥居もワンポイントで印象的な朱色を放っています。
ざっと1時間少し。元箱根での散策を楽しんだあと、目的地へ向かいます。ホテルと元箱根とは無料のシャトルバスで結ばれているため、いつでも手軽に行き来できます。
今回の目的地・山のホテルに到着。大きくせりだした玄関の屋根が特徴です。ここが「一度は泊まってみたいホテル」。箱根を知り尽くしている路線バスの運転手さんも、何度も箱根観光を楽しんできたご夫婦も、「一度は泊まってみたいね」と口を揃えるほど、大人たちのあこがれのホテルなのです。
どことなく中世の城を思わせるたたずまい。シックな赤い屋根と白い壁、そして横長に広がる独特の建物構造は、どこからみても絵になります。聞くところによると、スイスのレマン湖のほとりにたたずむ古城をイメージしてつくられたそうです。
一体、なぜスイスなのでしょう。それは、この場所には三菱財閥の4代目・岩崎小彌太男爵の別邸があったことに理由があります。今から約100年前、スイスにあこがれを抱いていた同氏は、箱根を「日本のスイス」としてイメージを重ね合わせ、この地を選んだそうです。杉木立に抱かれ、湖面を望む絶好のロケーション。個人の別邸とはいえ、ロケーションを重視したセンスと視点は、まさにホテルそのものだったような気がしてなりません。
清潔感に満ちあふれたロビー。高い天井、暖炉を連想させるフロント、鉄製の案内板など、どれもが統一感のあるクラシカルテイストです。物言わぬ一流のおもてなしが、ここにあります。
フロント付近は吹き抜け構造のため、階下のラウンジが見渡せます。上品なシャンデリアや大きな窓、それぞれの什器もクラシカルテイストそのものです。コーヒーの香りに誘われて、早速ラウンジへ足を運びました。
フレンチプレスによる風味豊かなコーヒーを、芦ノ湖を窓越しに眺めながら。
スタッフおすすめの季節限定の抹茶ラテ。真ん中に浮かぶ桜の花びらの塩漬けが、ほんのりしょっぱくていい感じです。
本物の暖炉も。こんなところにも西洋文化のこだわりが感じられます。
時間を忘れてしまいそうな、贅沢でゆったりとした非日常空間。気分はすっかり岩崎男爵そのものでした。
各館のエレベーターホールも、クラシカルテイストで統一されています。
巨大流木に出くわしてびっくり。ここは館内唯一のスパ・モンターニュの入口でした。オーナーがわざわざバリから船便で取り寄せたという本物の流木は、インパクト十分でした。
中に入ると、スパ施設とは思えないほど解放感がたっぷり。一見、客室のようにもみえてしまいます。最近はカップルでの利用が多くなってきたそうです。こうしてみると、やっぱりロケーションは大切です。
最上階には展望室もありました。大きなガラス窓からは、ホテルの庭園や芦ノ湖を行き交う遊覧船もみえました。100年前、別邸としてこの地を選んだ岩崎男爵も、こうして眼下のロケーションに目をやりながら、スイスに思いを馳せたのでしょう。