夕食では、和洋どちらか好きなほうを選べます。この日は洋を選び、フランス料理「ヴェル・ボワ」へ。このホテルで1週間にわたって滞在するゲストもいるそうで、そうした旅人たちにとっては、その日の気分次第でディナーを選べるのはうれしい心遣いでしょうし、旅の楽しみがさらに広がることでしょう。
伝統的なフレンチコース。かといって、堅苦しく構える必要はありません。何よりも、笑顔で料理を運んできてくれるスタッフの気遣いが安心感を与えてくれます。伝統を守りつつ、こうしてフランクな気持ちでフランス料理に接することができるのも、このホテルならではホスピタリティーにほかなりません。
まずは一口オードブルから。芦ノ湖産のワカサギがサクサクしていて絶品でした。ついついもっと食べたくなってしまう食感とあっさりした味付け。おかわりをアピールするゲストもいるそうですが、その気持ちよくわかります。
ビールもジンジャーエールもホテルのオリジナル。どちらも地下からのミネラルウォーターを使用しています。特に、シロップのブレンドからこだわってきたというジンジャーエールは、今まで味わったことのないソフトな炭酸とほんのり甘い風味が格別でした。
ゲストにも好評だというパンをちぎってみると。中にはクルミと黒イチジクが。ほどよい甘さが受けて、お土産として販売することもあるそうです。
アサリの香りのグリーンピースのポタージュ。ユニークなかたちをしたクルトンもサクサクしていて、楽しいコースのひとつでした。
メインディッシュとしてチョイスできる魚料理と肉料理。この日はイトヨリダイと、骨つき仔羊のグリエでした。驚いたのは、仔羊独特のにおいがまったくなく、香草の風味が香ばしさを引き出しているのか、しかも柔らかくてまるで牛肉のステーキを味わっているような感覚でした。
ほかにもご紹介したいドリンクや料理がたくさん。どのメニューも、食べやすくアレンジされている点に感銘を受けました。ハードルが高いといわれがちなフランス料理ですが、わざわざ料理だけを目的にやってくる日帰りゲストもいる理由がよくわかりました。
すっかり暗くなったホテルの夜。昼間と違って気温もぐんと下がり、春先はまだまだ冷え込みます。静かな湖畔の一日は、静かに終わりました。
朝。一日の始まり。歩いて10分のところに箱根神社があると聞いて、散歩がてらに出かけてみることにしました。樹齢600~800年といわれる杉木立に囲まれた箱根神社への石段。約1,300年も前の昔に建てられたというパワースポットが、こんな絶好のロケーションに建てられたというのも感慨深いものがあります。
石段を登りきると境内に。かつて太古の昔に起きた噴火の溶岩上に建っているそうで、今も山岳信仰の聖地として親しまれています。
早朝ならではの静けさ。心が洗われたような気さえしました。
朝を迎えた山のホテル。建物と向かい合っているのが、ホテルのシンボルでもある三本杉。長年、ホテルとともに歴史を刻んできた生き証人でもあります。
朝食も夕食同様、和洋どちらでも選べます。芦ノ湖を眺めながら、味噌漬けのベーコンやオムレツ、クロワッサン、そしてフレッシュイチゴジュースやリンゴのコンポートも添えられていました。料理だけでなく、空気もおいしい湖畔の朝に舌鼓を。
ちなみに、和食はこちら。蕪の煮物やアジの開き、豆乳蒸し、小松菜とさくらえびによる小鉢などが並びます。
ホテルは約4万坪もの広さを誇る敷地があります。舗道が整地され、随所にベンチも置かれているので、ゆっくり時間をかけて散策するのもステイでの楽しみかたです。
客室にいても鳥のさえずりがよく聞こえていましたが、なるほど湖畔にはさまざまな種類の野鳥が棲んでいるようです。その数10種類以上。鳥たちにとっても、この場所は絶好のロケーションなのでしょう。
何といっても建物を引き立てているのは、3,000株も植えられているツツジ。今や箱根を代表する絶景のひとつでもあります。ホテル同様変わらぬ歴史を刻んできました。
別邸からホテルへ。伝統から新しさへ。多くの人に愛され続けてきた、山のホテル。多くの人によって継承されてきた伝統。何よりも、絶好のロケーションを守ってきた人々の存在こそ、忘れてはならない一番のホスピタリティーだったような気がします。